つい最近、帳簿のデータ保存やスキャナ保存は、なかなか適用が難しい!なーんていうお話をしていたところです。
詳しくはこちら 【書籍】『詳説 電子帳簿保存法 実務のポイント』税務研究会出版局(2020年)
ところが、令和3年度の税制改正大綱で驚きの展開です!
予想を遥かに超えた柔軟性を見せていますので、ぜひとも紹介したいと思います。
今回の税制改正大綱では、電子帳簿保存法の中でも
- ◇帳簿のデータ保存
- ◇取引関係書類のスキャナ保存
- ◇電子取引のデータ保存
について、取り上げられていました。シリーズ第1回の今回は、帳簿のデータ保存についてお話ししようと思います。
現行の制度では、帳簿のデータ保存をするには、(事務手続の体制を整えて、)必要な機能が備わっている会計ソフトを導入し、税務署に申請を行う必要があります。
そのため、会計ソフトの選定・社内体制の確保・申請手続と3つの大きな壁に阻まれ、特に小規模すぎる事業者にはハードルが高い制度になっています。
会計ソフトを使っている場合、紙で出力した帳簿とデータで保存された帳簿は何が違うのか?むしろデータ保存のほうが、入力日や入力担当者が分かるので、税務調査をする方としては有利なのではないか?会計ソフトで作成した帳簿は印刷していないと信頼性が劣るのか?
…といった疑問が吹きだしてしょうがありませんでした。
ところが、令和3年度の税制改正大綱、とんでもなく前進しました。
- □まさかの、承認制度の廃止。
- □要件の大幅な緩和。
- □現行の要件を満たして(検索要件に緩和あり)予め届出をしておくと、過少申告加算税を5%軽減する!?
会計ソフトに関する要件についてはそこそこのキツさはありましたが、会計ソフトの中には要件を十分に兼ね備えたものも沢山ありましたので、会計ソフト自体が要件を満たしているかどうかという点については、あまり問題ないと考えていました。
その一方で、帳簿のデータ保存をする場合には「当該国税関係帳簿に係る電子計算機処理並びに当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に関する事務手続を明らかにした書類」があり、申請の時に税務署に提出する必要がありました。
必要な事務手続が条文上明確ではありませんが、正確な仕訳入力が適時にできるような社内体制が確保されていることを想定しているように見受けられるため、非常に小規模の事業者にとってみると、どのような事務手続を敷けばよいのかよくわからないところがありました。
というわけで、現状の電子帳簿保存法の条文と今般の税制改正大綱を見比べて、何が条件として残りそうなのか、という点を見ていこうと思います。
【帳簿をデータ保存するための要件】
- □帳簿の記録がすべてシステム上で行われている。※複数のシステムがあれば、原則として自動連携で仕訳計上をする仕組みを想定。(現状と同じ)
- □電子計算機処理システムの概要書その他一定の書類の備付け(説明書備付け要件)
- □モニターや説明書等の備付け(モニター等の備付け要件)
- □ダウンロードを求められれば、応じられる体制(ダウンロード要件)
- □上記要件を満たしていれば、申請・承認手続なしに帳簿のデータ保存が可能
【更に、過少申告加算税の5%軽減するための要件】
- □説明書備付け要件
- □モニター等の備付け条件
- □ダウンロード条件
- □帳簿の記録を訂正したり削除した場合に、その事実・内容が確認できるシステムである
- □入力年月日や一連の番号の記録が残り、通常の期間を経過した後に入力が行われた場合にはそれが分かるシステムである
- □検索機能の確保がされている(※検索項目については、取引等の年月日、取引金額及び取引先に限定。)
- □帳簿間の関連性が確保されている
- □予め届出書を提出する
とのことで、現状の要件を満たしている場合(検索項目については緩和あり)には、届出の上、所得税、法人税又は消費税に係る修正申告又は更正があった場合に、過少申告加算税が5%軽減される措置となっています。
大綱の内容がそのまま法律に反映されることとなれば、幅広い会計ソフトを選択できますし、税務署への申請が不要になったことで、電子化する帳簿の範囲を気にする必要もなくなりそうです。
「一定の書類の備付け」に説明書以外の何が含まれるのかは明らかではありませんが、たとえ現状の制度でネックになっている「事務手続を明らかにした書類」が必要だったとしても、改正の趣旨を考えれば、実情に応じて自由に記載することもできるものと考えられます。
会計ソフトを乗り換える場合に難しい面が出てくると思われますので、初期段階での会計ソフト選びはより慎重にならざるを得ませんが、一旦会計ソフトを導入してしまえば、だいぶ多くの人や会社が帳簿のデータ保存をできるようになるものと考えられます。
次回、スキャナ保存について考えます。