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インボイス制度 2割特例と課税事業者選択と簡易課税と。
最終更新日:2023年05月12日

消費税の制度は、税務メリットを取ろうとすると、事前の届出が必要なことが多く、かなりリスキーな制度となっています。

その一方で、今年の10月から始まるインボイス制度では、3月までの申請を原則としていたものの、当初から4月以降の申請についても柔軟な対応をする雰囲気を醸し出していたことをはじめとして、最近では、2割特例の適用に届出がいらないこととなり、今までの消費税の届出制度とは少し風合いが変わってきたように感じています。

2割特例の時限措置が出てきたことで、今まで届出ていた課税事業者選択、簡易課税はどのようになるのか、お話ししたいと思います。

2割特例の条件について

2割特例は、インボイス制度の導入を機に免税事業者が課税事業者となる場合に、税金の負担や税額計算の負担を軽減にするために設けられた制度です。

そのため、以下の場合には2割特例を適用することはできません。(Q&A問112参照)

  • (1) 過去の売上が一定額以上の場合(ex. 基準期間の課税売上高が1千万円超)
  • (2) 新たに設立された法人が一定規模以上の法人である場合
  • (3) 高額な資産を仕入れた場合
  • (4) 課税期間を短縮している場合(課税期間の特例の適用を受ける課税期間)

2割特例の適用が可能な期間は、「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」となっています。この間に上記の条件に当てはまる場合には、2割特例の適用ができなくなるので、留意が必要です。

2割特例の適用に当たっては、事前の届出が不要で、消費税の申告時に消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができます。また、継続的に適用する必要はなく、課税期間ごとに2割特例を適用するかどうかを選択することができます。

事業者によっては、売上と経費の金額が同じくらいで、年によっては損失が出て、年によっては利益が出る場合があるかもしれません。利益が出たとしても少額だったり多額だったりすることがあると思います。もしかしたら、2割特例よりも本則課税による方が税額が少なかったり還付を受けられることがあるかもしれません。こういった微妙な判断を要する場合には、基本的に12か月の損益を計算しないとわからない場合が多いため、2割特例に事前の届け出が必要ないということは、かなり大きなメリットとなると思います。

また、例えば、大きな設備投資があり本則課税で申告して還付を受けたい場合、簡易課税を選択していると、まずは簡易課税の不適用を届出する必要があるため、不適用届出を提出した翌課税期間にやっと設備投資ができることとなります。2割特例を届出なしに自由に選択できるのであれば、消費税の届け出のことを気にせずに迅速に設備投資を行えるようになるような気もします。

課税事業者選択届出と2割特例の関係について

免税事業者が課税事業者選択届出書を提出している場合、2割特例を適用できるのでしょうか。

Q&A 問113で以下のような記載があります。

  •  …2割特例…は、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者(「消費税課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった免税事業者を含みます。)が適格請求書発行事業者となる場合に適用することができます(28年改正法附則51の2①)。
  •  一方で、令和5年10月1日より前から「消費税課税事業者選択届出書」の提出により引き続き課税事業者となる同日を含む課税期間※、つまり、適格請求書等保存方式の開始前である令和5年9月30日以前の期間を含む課税期間の申告については、2割特例の適用を受けることはできません(28年改正法附則51の2①一)。
  • ※ 適格請求書発行事業者の登録申請書を提出した事業者であって、「消費税課税事業者選択届出書」の提出により令和5年10月1日を含む課税期間から課税事業者となる事業者については、当該課税期間中に「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより、「消費税課税事業者選択届出書」を失効させることができます(28年改正法附則51の2⑤)。

課税事業者選択届出書を提出していることが前提となっているQ&Aですが、まず、インボイスの発行事業者の登録をしなければ2割特例は使えません。

次に、課税事業者の選択適用開始の課税期間がいつなのかが問題となります。令和5年10月1日以前から課税事業者選択をしている場合には、基本的に令和5年10月1日を含む課税期間、つまり、例えば、個人事業者の場合には、令和5年1月1日~12月31日までの課税期間について、2割特例の適用を選択することができないこととなります。

ただし、課税事業者選択届出書を提出し、令和5年10月1日を含む課税期間から課税事業者となっている事業者については、当該課税期間中に不適用届出を行うことで選択届出の効力を失わせることができるという救済措置がとられています。

ここで、Q&Aには「令和5年9月30日以前の期間を含む課税期間の申告については、」と記載があります。令和6年以降はどうなるのでしょうか。

  •  なお、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出しない場合であっても、令和5年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後については、基準期間の課税売上高が1千万円以下である場合には、問112≪2割特例の適用ができない課税期間①≫の課税期間に該当しない限り、2割特例を適用することができます。

つまり、令和6年以降は、調整対象固定資産を取得しない限り、課税事業者選択をしたままでも2割特例を使えるようです。

…それだったら令和5年も不適用届出をしなくとも2割特例を使えてもいいのではないか、と思うのですが…。

簡易課税選択をしている場合の2割特例の選択

例えば、今まで課税事業者として簡易課税で申告をしていた事業者が、今期、基準期間の課税売上高が1千万円以下で免税事業者となったけれども、10月1日からインボイスの発行事業者となった場合、簡易課税ではなく2割特例を使うことができるのだろうか、という疑問がありました。

税務通信No3741(2023年2月20日)によれば、「簡易課税選択をしていても2割特例を適用することが可能」とのことです。(財務省のインボイス制度の担当者へのインタビューとのこと。)

どのような法構成になっているのでしょうか。平成28年改正法附則第51条の2第1項の条文構成は次のとおりです。

  •  適格請求書発行事業者…の5年施行日から5年施行日以後3年を経過する日までの日の属する課税期間…については、新消費税法第30条から第37条までの規定により新消費税法第30条第1項に規定する課税標準額に対する消費税額から控除することができる消費税法第30条第2項に規定する課税仕入れ等の税額の合計額は、新消費税法第30条から第37条までの規定にかかわらず、特別控除額とすることができる。

つまり、第37条により簡易課税を選択している場合でも、2割特例を選択することができるという条文構成になっています。

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