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雑所得と事業所得…そこにボーダーはあるんかい
最終更新日:2022年12月01日

10月7日に、雑所得に関する所得税基本通達35-1, 35-2が改正されました。

「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)

従来、事業所得にあたるかどうかという問題については、社会通念で判断するのが一般的だったと思います。

今回の通達の改正により、収入金額の多寡を問わず、帳簿書類の保存があれば、基本的に事業所得と解釈されるようですので、今回はこの通達をご紹介したいと思います。

それは、事業所得なのか雑所得なのか

雑所得とは何でしょうか?

雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも当たらない所得です。

つまり、事業所得か?雑所得か?と迷った場合には、まずお金の稼ぎ方が事業所得に当たるかどうか判断し、もしも事業所得に当たらなければ雑所得になります。

事業所得は、社会通念上、事業といえる活動で得られた所得です。

ここでは判例の内容は割愛しますが、平たく言うと、利益を得ることを目的として、継続的に活動し、事業上のリスクを負って活動して収入を得ている、ということが他から見てもよくわかるような活動で得た所得と考えられます。

1日24時間をどんな風に過ごしていて、どんな収入があって、収入をどう使っているか、何をやりたいのか、という点を見ていくと、事業所得か雑所得かの切り分けはできると思います。

所得税基本通達35-2が難解

今回の通達の改正は、新しい分野での所得や副業の所得があるケースが増えてきたことによって、事業所得か雑所得かの区分を明確にする必要が出てきたため、その判定の考え方を明らかにしたものです。

何かで稼いだ所得を事業所得にすると、マイナスの事業所得が給与所得等と損益通算ができたり、青色申告特別控除が使えたりと総所得を減らす効果がありますが、雑所得にはそのような効果がありません。

そのため、税金を取る側から見ると、事業というほどの規模でない場合にも事業所得とされると、税額が減ってしまうというデメリットがあります。

今回の改正では、事業所得と雑所得との切り分けについての明確な基準を設けたいけれども、納税者が税務メリットを得るために恣意的に事業所得を選択することは避けたいという思惑のせめぎ合いが見て取れるような気がします。

それでは、新しい所得税基本通達35-2を見ていきます。

  • (業務に係る雑所得の例示)
  •  次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。
  • (1) 動産…の貸付による所得
  • (2) 工業所有権の使用…に係る所得
  • (3) 温泉を利用する権利の設定による所得
  • (4) 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得
  • (5) 採石権、鉱業権の貸付けによる所得
  • (6) 金銭の貸付けによる所得
  • (7) 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得
  • (8) 保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得

太字(7)が今回の改正点です。なかなか悩ましいのが、(7)に「営利性」と「継続性」が触れられている点です。事業所得の社会通念上の判断として特に重要な部分と思われる判断基準が雑所得の例示に含まれています。むしろ、以前よりも事業所得と雑所得の垣根が低くなって、より分かりづらくなっているように思えます。

そこで、以下のような注釈が用意されています。

  • (注) 事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
  •  なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。

改正案として、当初は、主たる所得ではなく、かつ、収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り雑所得とする案を考えていたようです。ただ、「主たる所得」「反証がない限り」の部分の定義や範囲が問題となり、上記の注釈となったようです。

雑所得が「その他」の所得に当たるにも関わらず、その範囲を限定した点で馴染まなかったものと考えられます。それで、雑所得の方ではなく、事業所得の方の範囲を明確にすることとしたのではないでしょうか。

しかし、この注釈、まともに読もうとするとなかなか難解な表現になっています。一旦、社会通念で事業所得かどうかを判断するものの、もう一度、かっこ内で事業所得かどうかを判断するような流れに見えてしまい、判断のフロー図が書けないのです。帳簿書類の保存がある雑所得はどうなるのでしょうか。300万円超の収入で帳簿書類の保存がない場合はどうなるのでしょうか。

どうも、事業所得かどうかの判断に、社会通念による判断に加えて、金額や帳簿書類の保存に関する要件が付け加わっているように見受けられます。

帳簿書類の保存があれば事業所得という解釈

こちらの通達の改正とともに、『雑所得の範囲の取り扱いに関する所得税基本通達の解説』が出ています。

要約すると、

  • (1) 社会通念で事業所得となるものは事業所得
  • (2) 社会通念で事業所得とならないものでも帳簿書類の保存があれば概ね事業所得
  • (3) 社会通念で事業所得とならないもので、収入金額が300万円超だけれども、帳簿書類を保存していなければ、概ね雑所得
  • (4) 社会通念で事業所得とならないもので、収入金額が300万円以下で、帳簿書類を保存していなければ、雑所得

難しいのが、「概ね」と記載されている(2)と(3)です。

(1)の社会通念での判断は判例に基づくものなので、原則的な判断基準になっているようです。(2)~(4)が新しい判断基準のように見受けられますが、特に(2)の判断基準については、以前よりも事業所得と判定できる範囲が広がったような印象を受けます。

基本的に、収入金額が多くても少なくても、帳簿書類の保存があれば、事業所得といえる。

それはなぜか。通達の解説によれば、「その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多い」と考えられるからとのことです。

ただし、なんでもかんでも事業所得にして、損益通算や青色申告特別控除をするのは制限したいという思いもあり、帳簿書類を保存している場合でも、事業所得と認められない可能性を示唆しています。

  • (注) その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。
  • ① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
  •  例えば、その所得の収入金額が、例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満の場合には、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。
  • ※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。
  • ② その所得を得る活動に営利性が認められない場合
  •  その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます
  • ※「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます。

ここで怖いのは、この通達の「解説」が大きく取り上げられ、赤字のものは事業と認められない、とか、収入の割合や収入金額が小さいと事業と認められない、といった解釈が先行し、それが判断基準として世の中の常識になってしまうことです。

この解説の注釈の一番初めに書いてありますが、事業と認められるどうかを「個別に判断する」ので、赤字だから事業ではないとか、収入金額が少ないから事業ではないとかいうものではないと思います。

例えば、赤字だったとしても他の所得との関連性があったり、一番思いを込めて投資をしているような、まさしく、事業といえるものもあると考えられます。合理的な説明ができれば、事業の結果はなんであれ、事業所得であると言えるのではないかと思います。

300万円はどこから来たか。

先程から出てきているボーダーラインの収入金額300万円はどこから来たのか。令和2年度の雑所得の取扱いに関する税制改正に遡ります。

先程から帳簿が話題になっています。所得税法上、不動産所得、事業所得、山林所得については、帳簿を作成する義務がありますが、雑所得については帳簿を作成する義務はありません。

雑所得には帳簿が必要ないため、行政指導や税務調査で雑所得の検証に時間がかかってしまうという問題があり、令和4年以降、

前々年の収入金額が300万円超の場合には、現金預金取引等関係書類(現預金の入出金に関連する請求書、領収書等)を、起算日から5年間保存

することとなりました。

逆に言うと、前々年の収入金額が300万円以下の場合には、現金預金取引等関係書類の保存がいらない、ということとなります。

収入金額300万円以下の場合に、現金預金取引等関係書類の保存がいらないというのであれば、帳簿書類の作成はないものと考えられるため、通達の解説でも、収入金額300万円以下で、帳簿書類の作成がない場合には、雑所得と判断することとなっています。

ただし、収入金額が300万円超の場合には、現金預金取引等関係書類の保存はしているものの、帳簿書類は作成していない場合があります。そこで、基本的には雑所得の枠組みの中にいれるものの、帳簿書類がないことをもって雑所得とするのではなく、事業所得と認められる場合には事業所得とすべき場合があることにも触れられています。

しかしながら、「事業所得と認められる場合」の説明がないうえに、社会通念での判断を原則としている以上、一旦、社会通念上事業と考えられなかったものについて、収入金額が300万円超だから、もう一度よく考えてみたら事業所得と認められる…というケースはなかなかないような気がします。

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