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四半期報告書がなくなる?
最終更新日:2022年05月03日

T&A master No.927 2022年4月18日号に『四半期報告書の廃止が決定的に』という記事が載っていました。

普段、上場会社の監査をしている身としては、かなりショッキングな見出しです。

2022年4月12日 新しい資本主義実現会議(第5回)で、鈴木金融担当大臣が提出した資料に、四半期報告書と四半期決算短信を一本化し、四半期報告書を廃止する旨の記載がされていることで、四半期報告書の廃止が事実上確定した、とのことです。

資料を見てみましたが、確かに四半期報告書の廃止についての記載がありますが、本当に廃止なのかどうか、超絶気になるところであります。

というのも、四半期報告書や四半期レビュー制度の導入の経緯、今までの開示制度や監査制度の変化を知っていると、かなり違和感を覚えるお話だからです。

そもそも四半期報告書の提出と監査人によるレビューが義務付けられたのは、会計不正を防ぐ目的や、監査人によってレビューされた一定の信頼性のある財務報告がされることで投資家の要請を満たす目的があったと思います。

導入された当初の四半期報告書の開示内容は今よりもかなり分量が多かったので、会社に負担がかかっていたと思います。レビューする側も、監査ほどの手続は必要ないにしても、どの程度の手続を簡素化できるのか、試行錯誤するところもありました。

時を経て、会計基準や監査基準が整備されて、会社側と監査人側の四半期決算への慣れも出てきた上に開示も簡素化され、以前に比べると、根本的な、概念的な部分の迷いがなくなってきているような気がしています。

T&A masterの取材によると、「四半期報告書の廃止は、2023年の通常国会における金融商品取引法の改正を経て、2024年3月期に係る四半期から適用されることとなる見込み。」とあります。

本当でしょうか?

私の中では、開示の一体化の議論については、平成27年11月4日日本公認会計士協会『開示・監査制度の在り方に関する提言』がベースになっています。

開示制度と決算スケジュールが非効率になっている部分について分かりやすくまとめてあり、様々な提言がされています。提言が出た当時、まさに問題はそれだ…と心から思いながら読みました。

そこでは、年度の決算スケジュールで、当時4割の上場会社が、速報性を要求されるはずの決算短信を、計算書類の監査報告書日よりも後に提出している、というお話がありました。

四半期決算短信と四半期報告書の関係についても似たような関係にあると思います。監査人が四半期レビューを行い、数字が固まった所で短信を提出するようなスケジュールになっている会社もかなり多いと思います。そうすると、月内に短信を開示するためには、かなり早めにレビューを受ける必要が出てくるため、会社側・監査側双方にかなりの負担があるものと考えられます。

本当であれば、会社が会計の速報値を監査人のレビューが終わる前に短信を提出するような制度かと思いますが、日本では、なかなかそうならないので、もう、四半期報告書の方を辞めてしまおうか、という話なのかも知れません。

四半期報告制度については、直近で、金融庁 金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループで2022年2月18日に取り上げられています。

四半期報告制度を続けるかどうか、監査人によるレビューをどうするか、非財務情報の充実をどのようにして図るか、罰則規定の取り扱い…等が議論されています。

基本的には、現状通り、四半期報告制度を維持し、監査人のレビューを受ける方が有意義という考えのように見受けられます。

ただ、現行制度での短信と四半期報告書の重複については否めないので、ここをどういう制度に再構築して行くのか。

議事録を読んでいて思うのは、多くの方がおっしゃっている通り、四半期決算短信と四半期報告書を一本化してどちらかを無くす、という論理は乱暴な気がしました。

というのも、短信は財務数値の速報性、四半期報告書は財務報告の信頼性を要求されて開示されているものであり、同じような財務報告数値を取り扱っていても、開示の目的が違う部分があるからです。

短信も四半期報告書も残すのであれば、短信が速報できるような開示内容である必要が出てくると思います。

この点については、ここ数年で、短信の開示内容が目覚ましく簡素化されていて、割と自由な記載ができるようになっています。ただ、BS、PLを開示する必要があるので、レビューを受けた後に開示したいと考えると、なかなか速報性に結びつかないような気がします。

もしも、短信も四半期報告書も残すのであれば、短信では、詳細な財務報告をせずに財務数値の概要を速報し、四半期報告書で従来の方式をベースにした開示にする、という流れになるような気がします。

色々な経緯を考えると、四半期報告書が無くなる、という話はどうしても信じ難いのですが、どうなんでしょうか。

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