いろいろな理由でマイホームを手放すことがあります。
そんな時に、避けて通れないのが、譲渡所得。
譲渡益が出れば課税!というものでもなく、色々な優遇措置が用意されていて、これをうまく使うと税額を抑えることができます。
普段の税務相談では、何らかの優遇措置を取れるパターンが圧倒的に多いのですが、ふと考えると、↓こういう場合が一番難しいような気がします。
引っ越しした後、かなり経ってから家が売れたパターン。
税額を抑えるための優遇措置の方が例外的な取扱いなので、ネットで調べると優遇措置に関する情報はバンバン出てくるのですが、優遇措置にハマらない場合、どうしたら良いのかわからなくなるケースが結構ありそうな気がします。
優遇措置を使うためには、かなり色々な条件をクリアする必要があるのですが、もう入り口で「うわ!こりゃぁダメだ!!!」と思う条件はこちら↓ではないでしょうか。
以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
つまり、引っ越してから3年+αで売れればいいのですが、なかなか売れなくて、いざ売れた時にはもう締め切りが過ぎていた…みたいなケースです。
優遇措置が使えない、つまり、「譲渡益が出れば課税」という、原則的な取扱いになってしまう場合、どのようにすればよいのでしょうか。
今回は、引っ越しから、かな~り経ってマイホームが売れた場合の譲渡所得の取扱いについて考えてみたいと思います。
※ここでは、一軒家やマンションに住んでいたけれども、転勤になって、遠い他県に引っ越しして、かなり経ってから前の住居が売れたようなケースをイメージして書いています。
譲渡損益の計算方法
まず初めに、譲渡損益の計算方法についてお話します。
土地・建物等の譲渡所得は分離課税なので、土地・建物等の譲渡所得に特別の所得税率(短期30%、長期15%)をかけて所得税額を計算します。
つまり、譲渡益が出れば所有期間の長短に応じて税額が計算され、譲渡損が出た場合には他の所得と相殺できない仕組みになっています。
その一方、マイホームを手放すときには、引っ越して、どこか違う場所に住むはずです。マイホームが売れた時に、その譲渡益に税金をかけられてしまうと、税金を支払った分だけ、次の居住資金が減ってしまうこととなってしまいます。
そのため、マイホームを売ったときの譲渡所得については、税額を抑えるための色々な優遇措置が設けられています。
それでは、譲渡所得はどのように計算されるのでしょうか。どうなると譲渡益なのでしょうか?どうなると譲渡損なのでしょうか?
「マイホームが売れた金額>住宅ローン残高で、益!」でしょうか?
実は、これではありません。
「マイホームが売れた金額<住宅ローン残高で、損!」でしょうか?
実は、これではありません。この、損が出たと思っているケースが、結構危ないと思います。損が出たと思ったので確定申告を気にしていなかったけれども、実は、益が出ていた!というケースもあるかもしれません。
譲渡所得は、以下のように計算します。
譲渡所得=譲渡収入ー(取得費+譲渡費用) |
つまり、マイホームの売却代金から、取得費と売却に関連する費用(不動産会社への仲介手数料等)をマイナスした金額が譲渡所得です。
ここでいう「取得費」ですが、簿価をイメージするとわかりやすいかもしれません。土地は土地を購入した時の金額、建物は建物を購入した時の金額から減価分を差し引いたものです。
そう考えると、住宅ローンの残高と取得費は全く違うものであることを理解していただけると思います。特にマンションの場合には、減価が比較的緩やかなため、住宅ローン残高を上回る金額で売れたけれども、取得費が膨らんで譲渡損失になるケースもありそうな気がします。
- 《取得費の例》
- □購入代金
- □仲介手数料
- □売買契約書の印紙税
- □登録免許税&登記費用
- □不動産取得税
- □購入のための測量費
- □立退料
- □造成費用
- □設備費
- □土地改良費
- □所有権などを確保するために要した訴訟費用
- □土地付き建物を購入して建物をおおむね1年内に取り壊したときの取壊し費用
- □借入金の利子(実際に使用する日までに対応した分)
- □契約解除の違約金
- 《譲渡費用の例》
- □仲介手数料
- □売買契約書の印紙税
- □売却のための広告料
- □測量費
- □不動産鑑定料
- □建物を解体して引き渡した場合には、解体費用&残存簿価、立退料
- 《建物取得費の計算方法》
- 取得価額×{1-0.9×(法定耐用年数の1.5倍の償却率)×(経過年数)}
- ■法定耐用年数の1.5倍の償却率
- □木造:0.031
- □木骨モルタル:0.034
- □(鉄骨)鉄筋コンクリート:0.015
- □金属造:0.036か0.025
- ■経過年数
- 経過年数の6か月以上の端数は1年、6か月未満は切り捨て
取得費がわからないとき
優遇措置が使える場合も、使えない場合も、肝になるのは、取得費の計算の部分だと思います。
というのも、今回売却したマイホームを買ったのが相当前の場合、その時の書類がもう無くなっていて取得費がわからない、というケースがあるからです。
そのため、取得費を簡単に計算する方法が用意されています。(租税特別措置法31条の4)
取得費=譲渡収入×5% |
この方法を使った場合、譲渡所得はこのようになります。
譲渡所得=譲渡収入ー(譲渡収入×5%+譲渡費用) |
あまり築年数が経っていないマイホームを売る場合、取得費が譲渡収入の5%と計算すると、かなりの譲渡益が出る可能性があります。
ただ、優遇措置を採れる場合、例えば、3,000万円の特別控除を使える場合を考えてみると、譲渡収入の5%で取得費を計算したとしても、譲渡所得が3,000万円を下回る場合には、取得費を拾うのが手間がかかると考えて、5%で計算することもあるかもしれません。(←実は、取得費を厳密に計算すると譲渡損が出ていて、譲渡損の損益通算・繰越控除が使える場合があるので、判断は慎重に…。)
その一方、優遇措置を採れない場合、築浅なのに取得費を譲渡収入の5%で計算すると、譲渡益が炸裂して莫大な税額となるおそれがあります。
そう考えると、優遇措置を採れない場合こそ、取得費の計算は慎重に行う必要があるのではないでしょうか。
手元に、売買契約書しかない場合
色々な事情で引っ越しをするケースがあると思います。中には、マイホーム購入当時の書類が手元に全くなく、マイホームが売れた時の売買契約書しかないケースがあると思います。
優遇措置が採れなくて気持ちが折れているところに、マイホーム購入当時の書類が手元にない…。取得費が計算できないので、譲渡収入の5%ね!となると、かなり酷なものがあります。
ご留意いただきたいのが、取得費が分からない場合の5%の規定は強制ではなく、もっと他の方法で取得費の計算ができるのであれば、その方法で計算してもいい、ということです。
その方法については、明確な規定はないのですが、マイホーム購入当時の取得費を推定する方法があります。よりどころとなるのは、平成12年11月16日の国税不服裁判所の裁決です。
建物取得費について、調査会が公表している統計的な数値である建築物単価を基に建築価格を算定し、その価額から譲渡時までの減価償却費相当額を控除しているものであり、実勢価額の近似値と認められる時価相当額を推定していること、また、本件宅地の取得費については、本件物件の譲渡価額の総額から実勢価額の近似値と認められる当該建物の取得費を差し引いた額に、Mが調査し公表している六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の譲渡時に対する取得時の当該価格指数の割合を乗じて時価相当額を推定している |
つまり、建物は国税庁の『建物の標準的な建築価格表』により建築価格を算定し、減価分を控除した金額を取得費とし、土地は売却価格から建物取得費を差し引いた金額に取得時と売却時の地価の変動率をかけて計算しています。
『建物の標準的な建築価格表』については、確定申告書の譲渡所得の申告のしかた(記載例)の【参考2】に書いてあります。土地の価格については、建物の金額が分かれば、裁決事例と似たような方法で算定できる場合もあります。
ただ、譲渡金額が、『建物の標準的な建築価格表』により求めた建物の金額よりも低かったらどのようにしたら良いのでしょうか。土地の金額がマイナスになってしまうこともあると思います。また、たとえ土地の金額が計算できたとしても、想像以上に高い!とか低い!とか…
そのような時には、住宅ローンを組んでいれば住宅ローンの借入証書や登記事項証明書(抵当権設定)から借入額を確認して土地の金額を推定する、公示価格・相続税評価額・固定資産税評価額から推定する、不動産鑑定士の鑑定評価を利用する、といった色々な方法が考えられます。
優遇措置は取れないし、手元に売買契約書しかなくて取得費が計算できない、という時も諦めないでください。登記事項証明書(法務局で入手。オンラインも可。)や固定資産評価証明書(市・区役所で入手)に使える数字が書いてあるかもしれませんよ。