最近、上場会社の開示を見てみると、役員報酬にリストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェア、パフォーマンス・シェア・ユニットなどの株式報酬を採用している会社が増えてきた印象があります。
近年、『日本再興戦略』をきっかけに、様々な法改正が急ピッチで進められています。中でも、役員に対する株式報酬については、税務上の取扱いが柔軟になり、令和元年の会社法の改正があり、2021年1月に、企業会計基準委員会が『取締役の報酬等としての株式を無償交付する取引に関する取扱い』を公表したところで、会社法・税法・会計で一定の終着点が見えたような気がします。
改正された会社法の施行が2021年3月1日だったので、早いところでは2021年3月決算の会社に影響があったのではないでしょうか。
そこで、今回は、主に、業績連動型の株式報酬についての近年の法改正のお話をしようと思います。
- 《おススメの本》
- □『第5版 役員報酬をめぐる法務・会計・税務』田辺総合法律事務所、Moore至誠監査法人、Moore至誠税理士法人(2020年9月10日発行)清文社
役員報酬でコーポレートガバナンス
2010年3月期から、有価証券報告書に年間1億円以上の報酬を受け取る役員については、個別に報酬額を開示することとなりました。
普段は有価証券報告書を目にすることもない友人が、「うちの社長さー、1億円以上もらっているんだってさ!」と言っているのを見て、改正のインパクトの大きさに驚いたものです。
この時の改正は、コーポレートガバナンスに関する開示の強化を目的としていました。コーポレートガバナンス…最近、頻繁に聞く単語ですが、当時はしっくり来なかった記憶があります。
というのも、2008年に内部統制報告制度が導入されたこともあり、2010年に1億円開示が始まった当初は「コーポレートガバナンス=内部統制」のイメージが強かったからではないかと思います。役員個人の報酬を開示することと、コーポレートガバナンスが強化されることとの関係性がいまいち見えない時期だったせいか、役員の個人情報を守るべきとの主張の方がよく聞こえました。
それから10年が経ちました。
その間、コーポレートガバナンスに関する概念が一気に変わってきたことで、役員報酬に関する考え方もかなり充実してきたように思います。
一番インパクトがあったのが、コーポレート・ガバナンスに関する開示制度が始まったことではないでしょうか。
2014年の『日本再興戦略 改訂2014』に「稼ぐ力」という言葉が使われたあたりから、コーポレートガバナンスの目的に、経営者は、企業の中長期的な収益性・生産性を高める努力と能力が必要だ、という視点が明確に盛り込まれました。
そして、その流れで、2015年にコーポレートガバナンス・コードが定められたため、「コーポレートガバナンス」には、内部統制の他に、中長期的な企業価値の向上に向けた積極的な取り組み、という意味合いがある、ということも浸透してきたように見受けられます。
日本の会社の役員と言えば、従業員から役員に昇進する人が多く、従業員と似たような報酬形態をとったり、和(?)を尊重したりしている結果、他の先進国と比較すると、比較的低い報酬額となっていることが多い、という話があります。そのため、会社が「稼ぐ力」をつけるためには、役員の報酬を成果に連動させることが必要と言われてきました。
また、先進諸国では「ダイバーシティ」という言葉がよく使われていて、日本でも話に出てくるようになったのがここ10年くらいの話なような気がします。女性役員比率を増やそう、から始まり、人材は世界から受け入れよう、社外取締役を増やそう…という話が浸透しつつあります。他社、とりわけ、他の国の会社との人材獲得競争に勝つためには、かなりの報酬が必要と言われています。
そこで、ベースとなる報酬に加えて、中長期的な観点で業績に連動させた報酬を支給する仕組みを作る上場会社が増えてきました。報酬の支給方法もキャッシュではなく、株式で渡す方が業績に紐づけられると考え、近年の法改正を皮切りに、株式報酬を選択する上場会社が増えてきているように見受けられます。
役員報酬については、コーポレートガバナンスの観点から、制度設計に加えて、ステークホルダーに対する説明も必要であるため、開示を充実させる必要があります。現在では、役員の報酬の計算方法や支給方法について細かく記載している上場会社が増えてきており、有価証券報告書を読んでいると制度設計の緻密さに驚かされることがあります。
どうする。役員のボーナス。
税務上、役員報酬を役員が自由に決められるということになると、課税の公平性や適正性を損なうこととなってしまいますので、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与と3つの制度を設けています。
現状、役員に対するボーナスは、業績連動給与とするより、事前確定届出給与とすることが多いかもしれません。
役員に対するボーナスを事前確定届出給与とするためには、事前に支給時期及び支給金額を定める必要があります。これは、支給時期や支給額に対する恣意性を排除するためです。事前確定届出給与については、平成29年度の改正により、株式や新株予約権によるボーナスも事前確定届出給与の損金算入の対象になりました。
税務上の損金算入の要件を考えると、事前確定届出給与の適用対象が広くなったことで、業績連動給与よりも事前確定届出給与の方が手っ取り早い印象があります。
しかしながら、事前確定届出給与を選択した場合、当初考えていた金額よりも多くのボーナスを支払いたい場合に、損金不算入となってしまうというデメリットがあります。そのため、大幅な業績上昇に貢献しているにもかかわらず、それに見合った報酬が支払われない、というおそれがあります。
そうなってくると、業績連動給与という選択肢が浮上してくるのですが…
が、しかし、業績連動給与は、適正性や透明性が担保されていることを条件に損金算入を認めるものなので、その趣旨をベースにすると、かなりハードルが高い要件が設定されています。特に、算定方法を有価証券報告書等で開示している必要があることや、報酬委員会の決定か報酬諮問委員会等の諮問等を経る必要があることから、多くの会社で業績連動給与を支給するのは難しいかもしれません。
とはいえ、近年、コーポレートガバナンスの考え方に「稼ぐ力」という概念が浸透してきたことや、取締役の業務執行に対する監督機能が強化された機関設計にシフトしてきたことや、大企業で海外や他の産業分野から経営者を招聘するケースが出てきていることから、業績連動報酬への関心が高まってきているように見受けられます。そうなってくると、業績連動報酬を支給する会社としても、そして、業績連動報酬を受け取る役員としても、報酬が業績連動であることに、あまり抵抗がなくなってくるものと考えられます。
そんなわけで、現状では、制度上の制約により、ごくごく限られた会社だけが業績連動の株式報酬を採用する状況かと思います。もしも、世の中の考え方が、役員報酬は業績連動であるのが普通、みたいな流れになってくると、もっと業績連動給与の間口を広げてもいいんじゃないの?という方向に流れていくのかもしれません。
どうやって業績連動を盛り込むか
一言で「業績連動報酬」といっても、どうやって役員報酬に業績連動の考え方を盛り込むのでしょうか。
ここでは、役員が報酬を株式で受け取る場合について考えていきたいと思います。
株式が交付されると、役員は株主となるので、配当を受け取ったり、議決権を行使することができます。また、交付された株式の譲渡が制限されていない場合には株式を売って売却益を得ることができます。
つまり、会社の業績が上昇すれば役員に株式をたくさん付与する、という報酬設計であれば、役員は株主として得られるものが多くなり、株価が上がれば、株式の売却でお金をたくさんもらえることとなります。
会社としては、中長期的な目線で役員が業績を持ち上げてくれることを期待して株式を付与します。そのため、目先の利益を確保して、早々に株式を売却してキャピタルゲインを受け取られて経営に対するモチベーションが下がってしまうと困るので、通常、交付する株式に譲渡制限をつけると思います。
譲渡制限の解除要件は、中長期的にある一定の業績を満たした時や、任期満了などになると考えられます。
そう考えると、業績連動の考え方を、譲渡制限解除の要件に盛り込む方法と、株式の付与数に盛り込む方法が考えられます。
まず、譲渡制限解除の要件に盛り込む方法です。この方法は、まず初めに役員に譲渡制限付株式を付与して、一定期間の勤務と業績要件の達成により譲渡制限を解除するもので、パフォーマンス・シェアと呼ばれる方法です。
パフォーマンス・シェアは、平成28年度の税制改正により、一定の要件を満たせば事前確定届出給与として損金算入が可能とされたものの、一転、平成29年度の税制改正により平成29年10月1日以降に支給又は交付に係る決議がなされたものについては、損金不算入となりました。また、業績連動給与にするにしても、制度設計に相当な工夫が必要と考えられます。
次に、譲渡制限付株式の交付株式数に業績連動を組み込むパターンです。
評価期間を決めて評価期間の終わりに業績目標の達成度合いに応じて交付株式数が確定し、株式報酬が付与されるもので、パフォーマンス・シェア・ユニットと呼ばれています。パフォーマンス・シェア・ユニットについては、一定の要件を満たせば業績連動給与として損金算入できます。
それでは、会社法の規定はどのようになっているのでしょうか。
会社法の改正(株式発行)
役員の報酬を株式で渡すには、会社側としては株式の発行が必要です。
しかしながら、役員からの払込金額がゼロ円で株式を発行することができないことや(第199条第1項第2号)、労務による出資が認められないことから(第4号)、役員報酬として株式を直接支給することはできないものと考えられてきました。
そのため、パフォーマンス・シェア・ユニットを採用する場合、実務上は、初年度に業績連動の金銭報酬請求権を付与することを決定し、一定の期間が終了して株式を発行する時に、その金銭報酬請求権を現物出資する方法が採られてきました。(現物出資では、原則として検査役の調査が必要ですが、第207条第9項の規定により調査不要なことが多いと思います。)
会計上の仕訳は以下のような感じだと思います。
①各事業年度
株式報酬費用 | ×× | 負債 | ×× |
※評価期間は終了していないが、各事業年度ごとの成果を株式報酬費用として費用計上し、金銭報酬請求権(会社側からは負債)を増減させる。
②評価期間終了&現物出資
負債 | ×× | 払込資本 | ×× |
※評価期間中に計上した負債(金銭報酬請求権)を現物出資
金銭報酬請求権の付与→現物出資の方法ではなく、直接付与する方法があった方が効率的なため、令和元年の改正により、第202条の2(取締役の報酬等に係る募集事項の決定の特則)が新設されました。
これにより、上場している株式会社の役員報酬については、金銭報酬請求権の現物出資の方法を採らずに、株式の無償発行を行うことができることとなりました。
- 第202条の2第1項
- …上場されている株式を発行している株式会社は、定款又は株主総会の決議による第361条第1項第3号[役員報酬を募集株式にて支給]に掲げる事項についての定めに従いその発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をするときは、第199条第1項第2号[募集株式の払込金額又は算定方法]及び第4号[金銭の払込み]に掲げる事項を定めることを要しない。この場合において、当該株式会社は、募集株式について次に掲げる事項を定めなければならない。
- 一 取締役の報酬等(…)として当該募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をするものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込み又は第199条第1項第3号の財産の給付を要しない旨
- 二 募集株式を割り当てる日…
- ※[ ]は、内容追記しました。
なお、無償交付の場合には、払込金額を定める必要がないため、第199条第3項(有利発行)は適用されないそうです。
会社法の改正(役員報酬の決定方法)
役員報酬は、業務執行を担う取締役が自由に決めてしまうと、会社の財産を毀損するおそれがあるため、定款又は株主総会決議によって定めます。※以下、指名委員会等設置会社ではない会社を前提とします。
多くの株式会社では、会社法第361条第1項の事項については、定款ではなく、株主総会決議によって定めていると思います。株主総会決議では役員全体に対する役員報酬の上限や算定方法を決めて、役員個人個人の支給額については取締役会に一任し、その後、取締役会か、取締役会から一任された取締役が役員の個人別の報酬を決定する方法を採っているものと思われます。
役員全体の役員報酬の株主総会決議や、役員の個人別の報酬額の決定については、令和元年の会社法改正の対象となっています。
まず、新しい報酬を採用する場合や、報酬の上限額や算定方法を変更する場合に、株主総会で取締役がその理由を説明する必要がある点に留意が必要です。(会社法第361条第4項改正で、株主に対する説明は、第1項各号に掲げる事項が対象となっています。)
- 第361条第1項(取締役の報酬等)
- [取締役の報酬について定款又は株主総会で定める事項]
- 一 報酬等のうち額が確定しているものについて、その額
- 二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
- 三 報酬等のうち当該株式会社の募集株式…については、当該募集株式…の上限その他法務省令で定める事項
- 四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権…については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
- 五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
- イ 当該株式会社の募集株式 取締役が引き受ける当該募集株式の数…の上限…
- ロ 当該株式会社の募集新株予約権 取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数…の上限…
- 六 報酬等のうち金銭でない者(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
会社法施行規則第98条の2(取締役の報酬等のうち株式会社の募集株式について定めるべき事項)
- 一 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
- 二 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとしたときは、その旨及び当該一定の事由の概要
- 三 前2号に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
現物出資型のパフォーマンス・シェア・ユニットを導入する場合には、金銭報酬請求権を付与するため、361条第1項第1号や第2号の規定により限度額を決定してきたものと考えられます。制度全体を説明する必要があるため、付与する株式数についても旧第3号の規定により決議内容に含めていたものと考えられます。恐らく、これからも現物出資型のパフォーマンス・シェア・ユニットを導入する際には同様の決議がされるものと考えられます。
その一方、無償交付型のパフォーマンス・シェア・ユニットを導入する場合、第3号の規定により、株式数の上限(+α)を決議すればよいことになります。
また、個人別の報酬の算定方法についても、一定の会社については、透明性が必要となっている点に留意が必要です。
- 第361条第7項 (新設)
- 次に掲げる株式会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この項において同じ。)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による第1項各号に掲げる事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならない。ただし、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、この限りではない。
- 一 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの
- 二 監査等委員会設置会社
決定しなければいけない事項の詳細は以下です。(取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針)
- 会社法施行規則第98条の5
- 一 取締役(…)の個人別報酬等(…)の額又はその算定方法の決定に関する方針
- 二 …業績連動報酬等…がある場合には、…業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針
- 三 …非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針
- 四 第1号の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針
- 五 取締役に対し報酬を与える時期又は条件の決定に関する方針
- 六 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項…
- 七 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法…
- 八 前各号に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項
無償交付とパフォーマンス・シェア・ユニット
今回の会社法の改正で、株式報酬として無償発行ができるようになった点は、思いのほか大きい影響がありそうな気がしています。
パフォーマンス・シェア・ユニットでの報酬支給額は、直感的に
(1) 株式報酬額=付与株式数×株価
というイメージがありますが、現物出資型で、一旦、金銭報酬請求権を付与することを考えると、
(2) 株式報酬額=(金銭報酬請求権÷株価=付与株式数)×株価
とも考えられます。
現物出資型のパフォーマンス・シェア・ユニットでは、有利発行に気をつけなくてはいけないため、評価期間中に株価が上昇した場合、付与株式数を所与とすれば金銭報酬請求権を増額したり、金銭報酬請求権を所与とすれば付与株式数が減ったり、と、評価期間中の株価連動の影響を受けることとなります。イメージとしては、(2)の計算式が近いと思います。
その一方、無償発行型とした場合、有利発行の規定が適用されず、金銭報酬請求権をいくらにするかという問題が生じないため、より直感に近い、上記(1)のような感覚で制度設計ができるのは大きな利点かと思います。
2021年4月28日に株式会社三菱ケミカルホールディングス(指名委員会等設置会社)が無償交付型のパフォーマンス・シェア・ユニットの導入に関するプレスリリースをしています。
自社の株価と連動させたパフォーマンス・シェア・ユニットについては、以下のような計算式となっています。
- □株式数の算定方法:交付株式数=基準交付株式数×株式交付割合
- □基準交付株式数:各執行役の役位に応じて報酬委員会が決定した数
- □株式交付割合:下記の計算式で算出する当社の株式成長率に応じて、次のとおり決定
- ①50%未満:0%
- ②50%~200%:株式成長率(TSR/2021年3月終値からの成長率)
- ③200%を超える:200%
非常にシンプルでわかりやすい計算式だと思います。
パフォーマンス・シェア・ユニットの会計処理
パフォーマンス・シェア・ユニットの会計処理として『取締役の報酬等としての株式を無償交付する取引に関する取扱い』(ASBJ)を見ていきたいと思います。
パフォーマンス・シェア・ユニットは、評価期間を決めて評価期間の終わりに業績目標の達成度合いに応じて交付株式数が確定し、役員に株式報酬が付与されるものです。評価期間中は交付株式数がまだ確定していないのですが、評価期間中の各事業年度の会計処理は必要です。
この考え方は、ストック・オプション会計からきています。ストック・オプション会計では、役員や従業員への報酬としてストック・オプションを付与するのであれば、ストック・オプションの行使時にまとめて会計処理を行うのではなく、対象勤務期間(付与日から権利確定日)に渡って、各事業年度に報酬額を計上する方法を採っています。これは、会社が対象勤務期間中に役員や従業員から役務提供を受け、その対価として株式報酬を付与するもの、と考えられるため、各事業年度にその額を計上していくべき、という考え方に基づいています。
つまり、パフォーマンス・シェア・ユニットについても同様に、評価期間中の役員の働きによって業績が上昇した場合には、その状況に応じて報酬費用を計上していく会計処理になります。
具体的には、報酬額に対応する額については、負債(現物出資の場合の金銭報酬請求権)ではなく、純資産の部の株主資本以外の項目「新株引受権」に計上することとなります。そして、権利確定条件が達成したら、株式引受権を資本金又は資本準備金に計上します。
(1)各事業年度の報酬費用の計上
報酬費用 | ×× | 株式引受権 | ×× |
(2)新株の発行
新株引受権 | ×× | 資本金等 | ×× |
恐らく、無償交付型のパフォーマンス・シェア・ユニットでは、毎期のパフォーマンスの状況に応じて、付与株式数の見込みを計算して期末日株価により計上する役員報酬を決めて費用計上(相手勘定は新株引受権)し、評価期間が終了し確定した段階で新株引受権を払込資本に振り替える処理になると思います。
現物出資の場合と比較すると、各事業年度の報酬費用の相手勘定が負債か、新株引受権か、という違いはあるものの、各事業年度の報酬費用の計上額が、その期のパフォーマンスの状況を表すものである点は変わらないため、PL計上額はどちらの方法を採っても変わらないものと考えられます。
ただし、パフォーマンスの状況については、最終的な株式付与数の計算方法と似たような方法で計算されることとなると思いますので、計算方法がシンプルであればあるほど、業績連動の指標が客観的であればあるほど、各事業年度の報酬費用の計上がスムーズになると考えられます。そのため、無償交付型を導入したことで、より使いやすい計算方法が採用できた場合、スムーズな決算につながっていくような気がします。